第7次エネルギー基本計画の全貌|脱炭素電源7割へ、日本のエネルギー戦略とは?

脱炭素電源、2040年度に最大7割へ
~日本のエネルギー戦略の新たな展望~
2025年2月18日、日本政府は、新たなエネルギー基本計画と地球温暖化対策計画を閣議決定しました。
冒頭の『はじめに』では、いくつかの重要な指摘がなされています。
まずは、世界的なエネルギー価格高騰と、中東情勢の不安定化における日本におけるエネルギー需給構造上の危機について指摘しています。
次に、化石燃料輸入額拡大と国際収支におけるデジタル赤字拡大、さらにはエネルギー危機にも耐えうる、経済安全保障上のエネルギー需給構造の再構築の必要性について述べられています。
また、海外情勢につき、欧米における目標と現実路線の乖離、脱炭素電源が成長阻害要因とならないよう、次世代革新炉や次世代地熱発電への投資が急加速している点、さらには欧州での風力発電が火力を上回ったことや、スウェーデンでの原子力発電所の新設解禁などの路線転換を指摘しています。
我が国では、オントラックにて脱炭素が進められていることを前置きしたうえで、
「産業立地競争力の観点からは、国際的に遜色のない価格で安定した品質のエネルギー供給が不可欠であり、GX2040ビジョンで示された方針を踏まえ、エネルギー政策と経済政策を一体的に捉えながら、国が前面に立って脱炭素エネルギーの確保に向けた事業環境整備を進めていく必要がある」(「はじめに」より引用)
とされています。
これにより改めて、国の方針では脱炭素電源の確保がエネルギー経済安全保障に資する、との考えが維持されていることが理解できます。
前回のエネルギー基本計画と比較し、日本を取り巻くエネルギー情勢の大幅な変化に伴う環境変化について、切迫感や危機感がより強く伝わる内容となりました。
当コラムでは、多岐にわたるエネルギー各論のうち、太陽光発電に絞って内容をご紹介いたします。
計画の概要
政府が掲げた2040年度の電源構成目標は次の通りです:
- 再生可能エネルギー:
40~50% - 原子力発電:
20% - 火力発電:
30~40%
再エネの内訳は、太陽光発電が23~29%、風力が4~8%、水力が8~10%、地熱が1~2%、バイオマスが5~6%とされています。
特に太陽光発電が電力供給の柱として期待される一方で、風力発電のさらなる拡大も視野に入れられています。
原発については「可能な限り依存度を低減する」との方針が掲げられてきましたが、今回の計画ではその文言が削除されました。
さらに、既存の原発が廃炉になった場合、同じ電力会社が別の敷地内で新たな原発を建設することを容認する新しいルールも導入されました。
これにより、原発の建て替えが加速する可能性があります。
太陽光発電に対する展望
再生可能エネルギー(再エネ)は、発電コストの低減によって世界的に導入が加速しており、日本でもFIT制度の導入を契機に、再エネ比率は2012年の10%から2022年度には約22%にまで拡大しました。
第7次エネルギー基本計画では、2040年度までに再エネ比率を40~50%に引き上げる目標を掲げ、特に太陽光発電の拡大に重点を置いています。
1. 再生可能エネルギーの現状と今後の方針
再生可能エネルギーは、日本にとって持続可能なエネルギー社会を実現するための重要な柱です。
発電コストの低減に伴い、再エネは世界的に急速に普及しており、日本においてもその導入が着実に進展しています。
しかし、国土の地理的制約や地域との共生など、導入に伴う課題も顕在化しています。
これに対応するため、政府はS+3Eの原則(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)を基本に据え、再エネを主力電源化する方針を掲げています。
S+3E(エスプラススリーイー)とは、安全性(Safety)を大前提として、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現する考え方です。日本のエネルギー政策は「S+3E」の達成が重要と考えられています。
引用:知っておきたい経済の基礎知識~S+3Eって何?
今後の再エネ推進に向け、電力市場への統合と地域社会との調和が重要視されています。
政府は、送電網の整備や蓄電技術の開発を進め、発電量の変動を調整可能な体制を構築する計画です。
さらに、地域住民の理解を得るため、住民説明会の義務化や違反事業者へのFITやFIP交付金の一時停止など、事業規律を強化する措置を導入しました。
2. 太陽光発電の重要性と導入拡大の展望
太陽光発電は、日本の再エネ導入において中心的な役割を果たしています。
国土面積当たりの太陽光発電の導入容量は主要国で最大となっており、住宅や商業施設の屋根、壁面を活用する分散型のエネルギーリソースとして成長を続けています。
今後、政府は屋根設置型太陽光発電を中心に普及拡大を進める方針です。
公共部門では、2030年までに設置可能な建築物の50%、2040年までに100%に太陽光発電設備を設置する目標を掲げています。
これに伴い、新築建築物への太陽光発電設備の設置を義務化し、既存ストックの活用も進める計画です。
民間部門においても、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)や自家消費型の太陽光発電設備の導入を推進し、地域のエネルギー自給率向上を目指します。
3. 次世代型太陽電池への挑戦
次世代型ペロブスカイト太陽電池の開発と社会実装が計画されています。
この太陽電池は、従来のシリコン型と比較して軽量で柔軟性が高いため、都市部のビル壁面や耐荷重性の低い建築物にも設置可能です。
政府は2025年までに発電コストを20円/kWh、2040年までに10~14円/kWhに低減する目標を掲げ、国内生産体制の強化を進めています。
さらに、2040年までに約20GWの導入を目指し、海外市場への展開も視野に入れています。
ペロブスカイト太陽電池の実用化は、日本のエネルギー自給率の向上だけでなく、関連産業の競争力強化も期待されているところです。
将来的には建築物一体型太陽電池(BIPV)など新たな応用分野での普及が予想されています。
4. 廃棄・リサイクルへの取り組み
太陽光パネルの廃棄量は、2030年代後半から急増すると予測されています。
これに備え、政府は2022年に外部積立制度を導入し、廃棄費用の計画的な積み立てを義務付けました。
さらに、義務的リサイクル制度の導入に向けた検討を進めており、リユース・リサイクルの促進を通じて資源循環型社会の構築を目指します。
廃棄時に適正な処理が行われるよう、太陽光発電事業者に対してガイドラインの遵守を求め、現地調査体制の強化も実施しています。
これにより、太陽光発電設備のライフサイクル全体にわたる環境負荷の最小化を図ることが狙いです。
5. 再エネ導入の地域共生と経済成長
再エネ導入の拡大にあたっては、地域社会との共生が欠かせません。
地方自治体と連携し、地域脱炭素化促進事業制度を活用することで、地産地消型の再エネ導入を進めています。
再エネ発電設備の設置が地域の景観や防災に配慮した形で進められるよう、関係法令の厳格化と適正な事業計画の策定を推奨しています。
再エネの普及は、地域経済の活性化にも貢献することでしょう。
地元企業による再エネ設備の設置や維持管理、再エネ関連産業での雇用創出も期待され、エネルギー政策が地方創生の一環として位置付けられています。
まとめ
今回は触れていませんが、原子力発電に対するスタンスの変更もポイントとして挙げられるでしょう。
原発と再エネ電源を合算すると最大で7割超となり、安価な脱炭素電源である原発の従来のスタンスからの転換を明確に表明した、と言えるでしょう。
当年以降、2040年まであと15年で再エネ電源を2倍以上に増やす必要があります。
この数年間の大幅な環境変化を踏まえたうえで、国の方針が定められたいま、当社においても同業界の発展と課題解決に向け、取り組んでいきたいと考えています。